2025年9月28日(日)、アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)は、兵庫県および公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)と共催で、県立兵庫津ミュージアムにて「里山国際フォーラム」を開催しました。本フォーラムは、里山の歴史的・文化的価値を再認識し、自然との共生のあり方や持続可能な社会づくりについて考える契機とすることを目的としており、ISAP2025(持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム)と連携して実施されたプログラムです。国内外から、地域の実践者や一般の方々をはじめ、行政関係者、研究者など102名が参加しました。
開会にあたり、山崎寿之APNセンター長が挨拶を行いました。2024年5月に示された国の第6次環境基本計画に触れ、「自然資本の維持・回復を最優先課題とし、地域の資源や特性を活かしながら住民・行政・企業が協働して課題を解決していく『地域循環共生圏(Regional-CES)』が、持続可能な社会づくりの実践の場として重視されている」と説明しました。
続けて、「兵庫県では『北摂里山地域循環共生圏』の取組が進められており、APNもこの地から、里山の意義を国際的に発信してきた」と紹介しました。2014年から2018年にかけて、黒川地域や宝塚西谷の森公園、伊丹市の昆陽池公園などで、地域住民・行政・海外研究者が交流しながら、持続可能な里山の在り方を議論してきた経験が、今回の「里山国際フォーラム」へ繋がっていると述べました。
最後に、「本日のフォーラムを通じて、国内外の知見を共有し、地域に根ざした循環と共生のあり方を考える契機としてほしい」と期待を寄せました。

山崎寿之 APNセンター長
次に、兵庫県立大学の服部保 名誉教授が、「茶道文化によって支えられている兵庫県川西市黒川の里山林」と題して講演を行いました。
服部名誉教授は、日本の里山林の成り立ちと人との関わりについて、長年の研究成果に基づいて紹介しました。講演冒頭では、里山林を「ヒトが燃料を得るために、自然林に手を加えて育成した半自然林」と定義し、その原型となる照葉樹林の特徴や分布を地理学的に解説しました。さらに、日本各地の神社林や寺院林に残る照葉樹林を通じて、昔の植生を探ることができることを示し、「宗教施設に森を残すという文化は日本固有のものであり、昔の森の記憶を現在に伝えている」と語りました。
続いて、弥生時代に始まった定住生活と稲作の普及が燃料需要を生み、照葉樹林を伐採して薪・柴・炭を生産する里山林が形成された歴史を説明しました。特に、「切り株から再生する『萌芽更新』を繰り返し、弥生時代から2000年間、日本人に燃料を提供してきたのが里山である」と強調しました。また、昔話「桃太郎」を例に挙げ、「『おじいさんが山へ柴刈りに行く』とは、単なる採取ではなく、林の管理と燃料確保を一体化して行うことであり、循環的に燃料を得るための行為であった」と解説し、昔話に込められた知恵を紹介しました。
一方で、近年の里山林は燃料利用の減少により放置が進み、つる植物やササの繁茂、シカの食害などによって荒廃が進んでいる現状を報告しました。
そのうえで、今なお昔ながらの里山を維持している事例として、兵庫県川西市黒川地区における台場クヌギ林の循環利用を紹介しました。茶道用の高品質な炭「一庫炭」「池田炭」の生産を支えるこの地域では、伝統的な伐採・再生技術が維持され、地域住民の学習・体験活動にも活用されています。
最後に、服部名誉教授は万葉集に詠まれた
「春は萌え 夏は緑に くれないの まだらに見ゆる 秋の山かも」
を引用し次のように解説しました。
「秋になるといろんな樹木が紅葉してまだらに見えると解釈しがちだが、実は異なる。伐採の時期が1年目、2年目、3年目と異なるため、その景観がパッチワークのようにまだらに見えるという意味である。万葉集に詠まれた本物の里山景観は、唯一黒川に残されている。」と結びました。


服部 保 兵庫県立大学名誉教授
海外事例紹介では、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)サステイナビリティ統合センターのミトラ・ビジョン・クマール リサーチディレクターが、「地球規模の課題を地域から解決:地域循環共生圏コンセプトに基づいた脱炭素で強靭な社会をめざして」と題して講演しました。
ミトラ博士は、グローバルな持続可能性目標(SDGs、パリ協定、ネイチャー・ポジティブ2030など)を地域レベルで達成するための方策として「地域循環共生圏(Regional Circulating and Ecological Sphere: Regional-CES)」の概念を紹介しました。
博士は、「人口変動、都市化、気候変動、資源の過剰利用など、人間活動が引き起こした複合的な課題を解決するには、地域に根ざした行動=ローカルアクションが不可欠である」と強調し、「目標や政策を掲げるだけでは不十分であり、グローバル目標を地域レベルの実践につなげることが今後の鍵になる」と述べました。また、「単一の課題に限定した対策ではなく、複数の課題を同時に解決する“統合的な行動”が求められる」と指摘しました。
博士は、地域循環共生圏について、「特定の地域内における都市と農村の特性を活かした連携を通じて、自立分散型で持続可能な社会を構築するための統合的な政策アプローチである」と説明しました。このアプローチにより、脱炭素化、資源の効率的な循環、自然との調和、経済の活性化、そして地域住民のウェルビーイングを同時に実現することができます。さらに、農村地域がもつ多様な自然資源と、都市部の技術・資金・ノウハウを相互に補完し活用することで、地域の経済活動の活性化と環境の再生を両立できるとしています。
講演では、日本国内の地域循環共生圏の実践事例として、横浜市の再生可能エネルギーに関する連携協定、北九州市の食品廃棄物リサイクルモデルの構築、そして神奈川県の水源環境保全の取組を紹介しました。
また博士は、これら日本の好事例をもとに、2021年に設立された「CESアジアコンソーシアム」の活動を紹介しました。このコンソーシアムでは、南・東南アジア10か国の自治体や研究機関が連携し、地域の課題や資源に基づいた地域循環共生圏モデルを構築し、国家政策や地域実践へと展開しています。博士は、「重要なのは、私たちが解決策として提案する内容が、地域住民のニーズに沿ったものであることだ」と強調しました。多様な地域行動における相乗効果を探求し、地域間協力を強化する取組が進められています。その事例として、インド・ナグプール市での雨水貯留整備のための水資源保全税の導入、タイ・ウドンターニ市における都市と農村の連携による水・食糧安全保障の確保、バングラデシュでのソーラーシェアリング(農地の上で太陽光発電を行いながら作物を栽培する取組)などを紹介しました。
博士は、地域循環共生圏と里山の関係性については「両概念とも循環型資源利用と地域持続可能性を促進し、地域活動・地域資源に基づく点で相乗効果がある。ただし、里山はよりコミュニティベースの取組に焦点を当てる一方、地域循環共生圏は都市と農村の双方を考慮する必要がある」と述べました。また、政策決定から実際の行動へと移行する際、資金面で民間セクターの関与が極めて重要であり、民間セクターにとっても新たなビジネスの可能性を探求できると強調しました。
最後に博士は、地域循環共生圏の実現には、制度面、ガバナンス面、財政面など、依然として多くの政策的課題が残されていると指摘しました。そして、地域循環共生圏の概念を推進させるための実効的な解決策として、共創的な取り組み、地域コミュニティの強化、そして民間セクターの積極的な参画が不可欠であると結びました。


ミトラ ビジョン クマール
IGESサステイナビリティ統合センター リサーチディレクター
APNは、今後も兵庫県、関係機関、研究機関などと連携しながら、県民の皆さまが地球規模の環境問題についての認識を深められる取組を進めてまいります。
講演資料は下記のリンクからご覧ください。
| 講演 | |
| 『茶道文化によって支えられている兵庫県川西市黒川の里山林』 (講演資料:日本語資料(PDF)・英語資料(PDF)) 服部 保 氏 兵庫県立大学名誉教授 |
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| 海外事例紹介 | |
| 『地球規模の課題を地域から解決:地域循環共生圏コンセプトに基づいた脱炭素で強靭な社会をめざして』 (講演資料:日本語資料(PDF)・英語資料(PDF)) ミトラ・ビジョン・クマール 氏 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) サステイナビリティ統合センター リサーチディレクター |
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