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アジア太平洋地球変動研究ネットワーク

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「阪神・淡路大震災30年記念事業 SDGs国際フォーラム2024 気候危機時代の防災・復興の新たな展開~災害廃棄物の観点から~」 開催報告

2024年12月17日、APNは兵庫県、IGES、ひょうご安全の日推進県民会議、兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科とともに、「阪神・淡路大震災30年記念事業 SDGs国際フォーラム2024 気候危機時代の防災・復興の新たな展開~災害廃棄物の観点から~」を開催しました。本フォーラムは神戸市内の会場(ラッセホール)において日英同時通訳付きで実施され、国内外から約100名が参加しました。

開催にあたり、兵庫県の菅範昭環境部長が開会挨拶を行いました。菅部長は、阪神・淡路大震災から30年を迎えるにあたり、「当時は2000万トンという膨大な災害廃棄物が発生し、手探りで対応を進めていった」と振り返り、その経験と教訓を踏まえ、「2005年に県市町で災害廃棄物処理の相互応援協定を締結し、図上演習や実地訓練を行うなどの取組を進めてきた」と述べました。また、「本フォーラムを通じて災害廃棄物問題への理解を深め、防災意識向上に繋げたい」と期待を示しました。

開会挨拶 菅 範昭 兵庫県環境部長

第1部では、大迫政浩国立環境研究所フェローが「災害廃棄物と持続可能性」をテーマに基調講演を行いました。講演前半では、能登半島地震の事例を用いながら災害廃棄物処理の流れや基本方針等を説明し、「仮置場での分別作業が、処理リサイクルを円滑にし迅速な処理に繋がる」と強調しました。また、木くずを海上輸送しセメント工場でリサイクルする広域の資源循環システムが、災害時に大きな役割を果たした事例を紹介しました。後半は、災害廃棄物対策として8つの取組(処理インフラ、DX化、人・体制づくり等)を提案し、「平時と災害時の両方に役立つシームレスな対策が、災害時への強靭性を備えた持続可能な資源循環、廃棄物処理、そして持続可能な社会づくりに必要である」と結びました。

基調講演 大迫 政浩 国立研究開発法人国立環境研究所フェロー

続いて、アラブ首長国連邦ラブダンアカデミーのグレン・フェルナンデス博士が、フィリピンとフィジーでの災害廃棄物管理能力向上の事例を紹介しました。「災害廃棄物は短期間で膨大な量が発生し、健康被害や環境汚染、復旧・復興活動の遅延を引き起こす」と指摘し、特に2013年のハイヤン台風では「災害廃棄物がフィリピンの年間廃棄物総量をはるかに上回った」と述べました。フィリピンでは、災害廃棄物の定量化や復興計画への反映が進んでいないため、「国の廃棄物管理の枠組と長期計画の中に、『災害廃棄物管理』を加える必要がある」と提案しました。また、自治体職員への研修など人材育成の重要性や、フィリピン災害廃棄物管理協会(PADWM)を設立した成果を述べました。

海外事例紹介 グレン・フェルナンデス アラブ首長国連邦 ラブダンアカデミー レジリエンス学部准教授

第2部のパネルディスカッションでは「災害廃棄物処理と事前の備え」をテーマに多様な視点が共有されました。

株式会社奥村組の大塚義一氏(環境技術専門部長)は、民間企業として東日本大震災以降に進めた「ハイパースペクトルカメラ等を用いた廃棄物の種類・量の推定」「DX技術を活用した最適処理システムの開発」「降灰収集運搬シミュレーション」等の技術開発を紹介しました。また災害廃棄物統合管理システムの構築により、少人数での効率的な管理を実現した事例を挙げました。災害対応の本質として「知的好奇心」「信念・熱意」「広い視野」を挙げ、「何を見て・何を感じて・どう行動するか」が重要とし、引き続き社会貢献と技術革新に取り組む方針であると述べました。

パネリスト 大塚 義一 株式会社奥村組 技術本部 環境技術専門部長

兵庫県の髙原伸兒環境整備課長は、阪神淡路大震災で廃棄物処理体制が未整備の中、自治体職員が苦労しながら対応したことを振り返り、その後、補助金制度の改正や市町による解体事業実施、応援協定の締結、図上演習や模擬訓練が進められたと紹介しました。能登半島地震の支援経験から、トイレや瓦礫処理において教訓が十分に活かされていないことを課題に挙げました。南海トラフ地震に備え、「ICTやDXの活用、処理施設の強靭化、人材育成が必要」と提案し、「県民一人一人の意識向上が災害廃棄物対策の基盤になる」と強調しました。

パネリスト 髙原 伸兒  兵庫県環境部 環境整備課長

フェルナンデス博士は、日本とフィリピンでの経験を踏まえ、災害廃棄物管理の課題を国際的視点から共有しました。日本の地方自治体が持つ災害廃棄物処理支援ネットワークを高く評価し、フィリピンでもいくつかの大学と連携してネットワーク構築を進めていると報告しました。

大迫フェローは、災害への備えを、長期的な持続可能な社会づくりと両立していくことの重要性を強調しました。一般市民も含め各主体が当事者意識を持ち協力しながら、強靭な社会の実現に向けて成熟していく必要があると述べました。災害経験の検証と教訓の整理を行い、それを次の社会づくりに生かしていくことが重要であると指摘しました。

兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科の阪本真由美教授は、「いつも」というフェーズと、「もしも(災害時)」というフェーズを取り払い、「いつもやっていることをより良くする、それがもしもの備えにつながる」という「フェーズフリー」の考え方を提唱しました。その先行事例として愛媛県今治市クリーンセンター(バリクリーンセンター)を挙げ、廃棄物処理施設としてだけでなく、「いつも」はコミュニティの拠点として活用していることが災害時に避難拠点につながることを示しました。また、阪神・淡路大震災を経験した人が減少する中、教訓を次の災害対策に生かすためには人材育成が重要であると強調しました。さらに、災害廃棄物を「災害リスクマネジメント」の中に位置づけ事前の対策を強化することの重要性を訴えました。

コーディネーター 阪本 真由美 兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科教授

最後に、リンダ・アン・スティーブンソンAPNセンター長代理より閉会挨拶を行いました。議論を通じて、災害廃棄物は、単なる物流上の問題ではなく、イノベーション、協働、持続可能な開発の推進に向けた大きな機会であることに気づかされたと述べました。全ての講演でパートナーシップの重要性に言及されたこと、イノベーションの重要性が繰り返し述べられたことを挙げました。そして、こうした取組の中心には、災害に直接的に影響を受けた人々やコミュニティがあり、彼らの回復力、ニーズ、希望が、私たちの行動の中心であり続けなければならないと述べました。「共有された知識、ビジョンを持って皆様と共に前進していきたい」と締めくくりました。

閉会挨拶 リンダ・アン・スティーブンソン  アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)センター長代理

APNでは、兵庫県、関係機関、研究機関などと連携しながら、今後も、県民の皆さまが気候変動問題についての認識を深められる取組を進めてまいります。

当日のプログラムはこちらよりご覧ください。

発表資料は下記のリンクからご覧ください。

〔 第一部 〕
基調講演

 

事例紹介

『災害廃棄物処理と持続可能性』(発表資料:日本語英語
大迫政浩
国立研究開発法人国立環境研究所フェロー

『フィジーおよびフィリピンの沿岸都市における台風後の災害廃棄物管理能力の開発』(発表資料:日本語英語
グレン・フェルナンデス
アラブ首長国連邦 ラブダンアカデミー 准教授

〔 第二部 〕
パネルディスカッション テーマ:『災害廃棄物処理と事前の備え』
コーディネーター

  • 阪本真由美 兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科教授 (発表資料:日英併記

パネリスト

  • 大迫政浩 国立研究開発法人 国立環境研究所フェロー
  • グレン・フェルナンデス アラブ首長国連邦 ラブダンアカデミー 准教授
  • 大塚義一 株式会社奥村組 技術本部 環境技術専門部長 (発表資料:日本語英語
  • 髙原伸兒 兵庫県環境部 環境整備課長 (発表資料:日本語英語