2021年3月28日、APNは、神戸大学農学部とともに、「身近な森のたくさんのふしぎ、たくさんの課題 – 30年後の森林環境を考える – 」を開催しました。当セミナーは、兵庫県内にある環境関係団体や学術団体、及び大学等と連携し、住民の皆さんと共に、環境問題について考える機会を創出するために開催するものです。今回は、日本の国土の3分の2を占める「森林」をテーマとして開催しました。
まず、塚田センター長が、開会の挨拶に続いて、生物多様性や生態系の多様性の紹介、自然の恵みが私たちの生活を支えていること、人間の活動により生物多様性が危機に瀕していることなどに触れてセミナーがスタートしました。
初めの講演は、神戸大学大学院農学研究科の黒田慶子教授が「森の中の生存競争・・・昆虫と微生物と樹木」と題して話されました。キクイムシをはじめとする昆虫が、枯死にどう関係しているのか、木の持つ自己防御反応が枯死の原因であったことの発見など、専門的なお話を交えながらも分かりやすく説明されました。専門的な研究の成果や学説を変えるような発見を例に挙げながら、目に見えているものを正しく理解すること、これは不思議だと分かること・感じることの大切さ、柔軟性と広い視野をもって「なぜ」に気づく能力が大切であると述べられました。
続いて、⼤阪市⽴⾃然史博物館の学芸課⻑である佐久間⼤輔氏が「見えるきのこから見えない地下を考える:森を理解するために」と題して話されました。樹木とキノコは菌糸でつながっていること、キノコは木に寄生するが、逆にキノコに寄生する植物もあることなど、キノコに関する専門的なお話をかみ砕いて説明されました。また、キノコの生育分布や状況から、地下の構造を類推できるだけでなく、森の状態や森の個性なども知ることができるなど、小さなキノコから森全体を知ることができることを話され、我々が普段気づかない森の中の共生関係を紹介されました。
最後の講演では、国連⼤学の研究員であるEvonne Yiu氏が「里山を元気にしよう!SATOYAMA イニシアティブから考える森林保全の重要性」と題して話されました。森が持つ多面的機能、森林の利用と脅威、森が古くから人々の生活に深くかかわり、生活・生業・文化を支えており、伝統的に自然資源を共同管理する仕組みがあったこと、農林水産業従事者の減少・高齢化に伴って、適切な資源管理の仕組みを維持していくことが困難になっている現状を解説され、生物多様性・生態系と調和した高付加価値型の農林水産業を基軸とした、地域複合産業の創造が重要であると話されました。また、2008年に環境省と国連大学高等研究所(現在の国連大学サステイナビリティ高等研究所)の共同により発足した、地域の環境が持つポテンシャルに応じた自然資源の持続可能な管理・利用のための共通理念を構築し、世界各地の自然共生社会の実現に活かしていく取り組み「SATOYAMAイニシアティブ」と、その理念に基づいて里山・里海の維持や再生に取り組んでいる世界中の団体により構成されるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)の取り組みを紹介されました。
講演に続いて、パネルディスカッションを行いました。視聴している皆さんから、古来より日本の自然は、人間の手入れなど必要とせず生態系が保たれてきと思うが、なぜ近年になって定期的な伐採や刈り入れなどが必要となったのか、外来種や急激な環境変化が森に与える影響、森のレジリエンスについてなど、多様な質問が活発に寄せられました。講師の皆さまは、熱心に、かつ、分かりやすく回答され、予定時間を過ぎても紹介しきれない質問があるほどでした。
新型コロナウィルス感染症に係る緊急事態宣言が発令中であったため、オンラインのみの開催なりましたが、80名を超える方々、中でも学生の方に多くご参加頂いたことは、嬉しく思っています。また、今回のセミナーでは、それぞれの講師に、どのような過程、経歴を経て研究者になったのか、なぜ現在の研究テーマに興味を持ったのかなどもお話し頂きました。学生の方には、進路及び将来の参考にして頂けたのではないかと考えています。
APNでは、今後とも周辺の関係機関や大学の研究機関などと連携しながら、住民の皆さんと環境問題についての認識を深めるための取り組みを進めていく予定です。