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アジア太平洋地球変動研究ネットワーク

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特別号「気候変動の影響、及び気候変動に対する脆弱性及び適応:アジアの視点」の発行

アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)は、気候変動がもたらす課題に対応するため、科学的知見に基づく政策決定及び政策策定を促進するための研究、また、若手研究者等の能力開発に対する支援を通し、地域に貢献しています。また、地域内における新しい気候情報、政策のギャップ、及び得た教訓等を含む知識的知見は、極めて重要であり、実践者や政策策定者等を含むステークホルダーに広く共有されることが必要であると考えています。

この度、Dr Sangam Shrestha(アジア工科大学)、Dr Linda Anne Stevenson(APN)、Dr Rajib Shaw(慶応義塾大学)、及びDr Juan Pulhin(フィリピン大学ロスバニオス校)の編集により、APNが過去に助成したプロジェクトの成果を集めた「気候変動の影響、及び気候変動に対する脆弱性及び適応:アジアの視点」が、エルゼビアの「環境研究」特別号として発行されました。

この成果が、気候変動が自然及び人間システムにもたらす負の影響を削減するための適応政策の策定、また、国、地域及び世界レベルにおける気候変動への取り組みに寄与することを期待しています。

 

掲載されたプロジェクト及びその成果の概要

– 気候変動の影響 –

インド洋:変則的なエルニーニョ現象が海面の塩分濃度に大きく影響

インド洋赤道海域において、エルニーニョ現象が、海面の塩分濃度に年ごとに異なる影響を及ぼしていることが判明した。また、変則的な東西移流によって運ばれる熱エネルギーが、海面の塩度濃度の変化に重要な役割を果たしていることが判明した。

Yue, W., Lin, L., & Xiaotong, Z. (2020). Influence of El Niño events on sea surface salinity over the central equatorial Indian Ocean. Environmental Research, 182, 109097. doi:10.1016/j.envres.2019.109097

 

カンボジア:適応策がマイクロビジネスにおける気候の影響を削減

台風や洪水をもたらす異常気象は、ビジネスに係るリスクを増加させ、多くの事業者、特にマイクロビジネスにとって大きな負担となっている。クラチェ州(カンボジア)の観光業及び接客業を対象に行われたケース・スタディは、マイクロビジネスの事業者が、長期的及び体系的な方策よりも、短期的及び反応型の対応を実施していることを明らかにした。

Ngin, C., Chhom, C., & Neef, A. (2020). Climate change impacts and disaster resilience among micro businesses in the tourism and hospitality sector: The case of Kratie, Cambodia. Environmental Research, 186, 109557. doi:10.1016/j.envres.2020.109557

 

ベトナム:将来の土地活用が地下水涵養に悪影響を及ぼす可能性

重要だが脆弱な資源である地下水は、人口の増加、産業の拡張、都市化に伴う土地利用の大きな変化の影響を受けている。ホーチミン市(ベトナム)では、「都市化度の低い」シナリオでは年間15パーセントの地下水リチャージの可能性があるが、「都市化度の高い」シナリオでは半分以下に留まることが判明した。

Adhikari, R. K., Mohanasundaram, S., & Shrestha, S. (2020). Impacts of land-use changes on the groundwater recharge in the Ho Chi Minh city, Vietnam. Environmental Research, 185, 109440. doi:10.1016/j.envres.2020.109440

 

ネパール:気候モデルから予測される利用可能な水量

山岳地帯におけるコミュニティへの水の供給源は、氷原の雪解け水である。カルナリ川(ネパール)にて実施された研究では、統合地域ダウンスケーリング実験(CORDEX)による気象モデルの作成を通して、異なる気候シナリオにおける水の利用可能量を予測した。また、気温、降水量、及び年間の河川の流量の増加を予測した。

Dahal, P., Shrestha, M. L., Panthi, J., & Pradhananga, D. (2020). Modeling the future impacts of climate change on water availability in the Karnali River Basin of Nepal Himalaya. Environmental Research, 185, 109430. doi:10.1016/j.envres.2020.109430 

 

– 気候変動の適応 –

ブータン・インド:効果的な農業廃棄物管理-ローカル規模のスマート化

本プロジェクトは、農業バイオマス燃焼よる廃棄物の処理及び作物残渣の活用が、気候変動の緩和をもたらす有効な廃棄物管理戦略であること示した。インド及びブータンにおける約2700の農業従事者は、農作物の生産量の増加、大気の質の改善、及び二酸化炭素の排出量の削減を促進するため、農業廃棄物の利用を巡るスマート化に向けた、新しい取り組みを実践している。

Dey, D., Gyeltshen, T., Aich, A., Naskar, M., & Roy, A. (2020). Climate adaptive crop-residue management for soil-function improvement; recommendations from field interventions at two agro-ecological zones in South Asia. Environmental Research, 183, 109164. doi:10.1016/j.envres.2020.109164

 

タイ:評価フレームワークによる水安全保障に係る現実的な解決案

バンコク(タイ)における水安全保障を評価するため、都市規模の水安全保障に係る評価フレームワークが、5つの側面、12の指標、及び一連の潜在変数により作成された。本フレームワークは、地域ごとの細かな差異を捕らえることができるものである。本フレームワークが、タイにおける気候変動適応イニシアティブの実施に寄与することが期待される。

Babel, M. S., Shinde, V. R., Sharma, D., & Dang, N. M. (2020). Measuring water security: A vital step for climate change adaptation. Environmental Research, 185, 109400. doi:10.1016/j.envres.2020.109400

 

カンボジア:「使いやすい」評価ツールがコミュニティにおけるレジリエンスの構築に寄与

コミュニティにとって、独自のレジリエンスを構築し、適応努力に係る当事者意識を持ためには、多くのレジリエンス評価フレームワークは必要ない。本プロジェクトは、限られた評価ツールを利用して、レジリエンスにおける変化を特定することが可能であることを明らかにした。また、持続的なレジリエンスの構築にはコミュニティの発展が必要であることを示した。

Jacobson, C. (2020). Community climate resilience in Cambodia. Environmental Research, 186, 109512. doi:10.1016/j.envres.2020.109512

 

フィリピン:組織的レジリエンスの構築が効果的な気候適応行動の基礎となる

本プロジェクトの目的は、主要な関係者による、地域の気候変動及び防災に係る行動計画の作成を通じた、フィリピンにおける地方政府の制度的回復力の構築である。本プロジェクトでは、パートナーシップを強化するための共有学習を行った。また、組織の能力開発の鍵は、気候変動適応の最前線で取り組む地方政府の、組織としての制度的回復力の強化であることを示した。

Grefalda, L. B., Pulhin, J. M., Tapia, M. A., Anacio, D. B., Luna, C. C., Sabino, L. L., . . . Inoue, M. (2020). Building institutional resilience in the context of climate change in Aurora, Philippines. Environmental Research, 186, 109584. doi:10.1016/j.envres.2020.109584

 

ネパール:遠隔地コミュニティのための柔軟な評価ツールキットの試行

都市部を対象とした適応ツールキットの地方における汎用性を確かめるため、ヒマラヤのRamgadにて試行された。その結果、本ツールキットは、ヒマラヤにおけるコミュニティの脆弱性及び適応能力を評価するにあたり、使いやすく、また、汎用であることを示した。他方、都市部及び地方の適応能力ニーズが異なることを受け、地方における有効性を向上するため、更なる改良が期待される。

Heath, L. C., Tiwari, P., Sadhukhan, B., Tiwari, S., Chapagain, P., Xu, T., . . . Yan, J. (2020). Building climate change resilience by using a versatile toolkit for local governments and communities in rural Himalaya. Environmental Research, 109636. doi:10.1016/j.envres.2020.109636

 

中国:気候変動は全ての人に影響を及ぼす-労働者に対する必要不可欠な健康保護政策

広州市(中国)において、暑い天候下における労働衛生を守るための政策の有効性を調査した。時系列分析を利用し、政策の施行後における労働災害、及び保険金の支払いの変化を数値化した。その結果、証明された政策の有効性は、政策決定者に対し、労働者の保護を目的とした費用対効果の高い気候適応戦略として、同様の政策を策定することを示唆するものである。

Su, Y., Cheng, L., Cai, W., Lee, J. K. W., Zhong, S., Chen, S., … & Huang, C. (2020). Evaluating the effectiveness of laborer protection policy on occupational injuries caused by extreme heat in a large subtropical city of China. Environmental research186, 109532. doi:10.1016/j.envres.2020.109532

 

– 気候変動による影響の脆弱性 –

ネパール:気候シナリオを利用した地下水レジリエンス・マップの作成

本プロジェクトは、気候変動が地下水資源に与える影響を調査するためのマルチシナリオ分析に基づき、カトマンズ渓谷(ネパール)の地下水レジリエンス・マップを作成した。カトマンズ渓谷において、気候変動が地下水資源に与える負の影響を削減するため、適応戦略の構築及び実施に対して知見を提供するものである。

Shrestha, S., Neupane, S., Mohanasundaram, S., & Pandey, V. P. (2020). Mapping groundwater resiliency under climate change scenarios: A case study of Kathmandu Valley, Nepal. Environmental Research, 183, 109149. doi:10.1016/j.envres.2020.109149

 

ベトナム:デング熱に対する脆弱性をより正確に予測するための統合的なアプローチ

メコン川流域(ベトナム)におけるデング熱に対する脆弱性を予測するため、脆弱性マップ及び時系列モデルを融合させた新しいアプローチが試行された。その結果、公衆衛生セクターが、気候変動下におけるデング熱に対する脆弱性の増加の可能性を評価するにあたり、本アプローチが有効であることを明らかにした。

Pham, N. T., Nguyen, C. T., & Vu, H. H. (2020). Assessing and modelling vulnerability to dengue in the Mekong Delta of Vietnam by geospatial and time-series approaches. Environmental Research186, 109545. doi:10.1016/j.envres.2020.109545

 

タイ:高い人口密度を有する都市部における熱性ストレス及び健康

本プロジェクトでは、バンコク(タイ)に住む505名を対象とした調査により、人口密度が高く、緑地が少ない都市部に住む住民が、熱性ストレスをより感じ、また、健康及び福祉に悪影響を及ぼしていることを明らかにした。

Arifwidodo, S. D., & Chandrasiri, O. (2020). Urban heat stress and human health in Bangkok, Thailand. Environmental Research, 185, 109398. doi:10.1016/j.envres.2020.109398

 

東南アジア:マルチモデル地域予測を利用した豪雨の予測

東南アジア地域の統合地域ダウンスケーリング実験(CORDEX-SEA)によるシミュレーションの成果を利用して、将来における東南アジアの豪雨予測に関する分析を実施した。その結果、海洋大陸は乾燥し、インドシナ本島は降水量、及び降雨の強さが増加することを予測した。

Supari, Tangang, F., Juneng, L., Cruz, F., Chung, J. X., Ngai, S. T., . . . Sopaheluwakan, A. (2020). Multi-model projections of precipitation extremes in Southeast Asia based on CORDEX-Southeast Asia simulations. Environmental Research, 184, 109350. doi:10.1016/j.envres.2020.109350

 

統合報告書 

アジア:APNによるアジアにおける気候変動に係る研究努力に関する統合報告書

アジアにおける気候変動に係る取組みを集めた統合報告書では、気候変動適応及び緩和、生態系及び生物多様性、水・食料・エネルギーの連鎖、持続的な廃棄物管理、及び気候教育に関する115のプロジェクトが、東南アジア、南アジア、及び北東アジアにおいて実施されたことを示した。

Uchiyama, C., Stevenson, L. A., & Tandoko, E. (2020). Climate Change Research in Asia: A knowledge synthesis of Asia-Pacific Network for Global Change Research (2013-2018). Environmental Research188, 109635. doi:10.1016/j.envres.2020.109635