2018年11月10日、APNは、兵庫県阪神北県民局、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)及び北摂里山博物館運営協議会とともに、「北摂SATOYAMA国際セミナー:里山を未来につなぐ – 里山保全活動の活性化と次世代への継承 -」を宝塚で開催しました。当日は、130名を超える多くの方々が参加しました。
基調講演では、写真家の今森光彦氏が、自らのアトリエを構える琵琶湖畔の里山における人と自然の共生、及び人と自然が作り出す里山の様々な景色の美しさなどについて、講演をしました。
次に基調報告において、ニュージーランドからお招きしたテ・ウァナンガ・オ・マトゥア大学のパタカ・ムーア講師が、自然とその自然を長きに亘り尊んできた人間との密接なかかわりを基盤とするマオリ族の世界観について説明しました。また、持続可能な環境保全の重要性を説き、伝統的知識がコミュニティの若年層へどのように継承されているかについて、その成功事例を交えて発表しました。
また、ブータンからからお招きしたブータン王立大学国民総幸福量研究所マネージャーのジャンバ・トブデン氏は、同国では、幸福の実現を目指した政策を展開していること、また、カーボンニュートラルな国づくり、そして持続的な土地開発及び森林管理を維持するための取り組みについて説明しました。続けて、ブータン政府が生態系保全策を自国予算で実施できるようになるまでの暫定的な方策として、世界自然保護基金とともに立ち上げた資金調達メカニズム「Bhutan for Life」を紹介しました。
パネルディスカッションでは、兵庫県立人と自然の博物館の中瀬勲館長のコーディネートの下、ムーア講師及びトブデン氏のほか、及川ひろみ氏(認定NPO法人宍塚の自然と歴史の会理事長)、寺川裕子氏( NPO法人里山倶楽部理事)、馬場正男氏( NPO法人上山高原エコミュージアム事務局長)、近藤茂 氏(櫻守の会副代表)、ならびに聴衆から、主に以下のような意見表明がなされました。
- 政府及び政策による支援があれば、自然保全、及び環境に関する知識や経験の次世代への継承は成功する。
- SNS等のプラットフォームの活用は、若年層における自然や里山の価値観を高めるにあたり有効である。
- 若年層が生まれ育った文化との間に結びつきを構築するためには、まずは、自身と向き合い、自身を受け入れる能力を育まなければならない。
- NPO等の活動を支援するため、民間企業等に対する支援の継続的な働きかけが必要である。
- 自然を活用したレクリエーションや研究活動を通し、若年層における自然及び文化の保全に対する理解や愛着を育むことが出来る。また、レクリエーションや研究活動は、NPOの中心的な活動となり得る。
閉会にあたり、APNセンター長の筒井誠二が挨拶を行い、「地球や地域の環境保全を実現するためには、生態学的・自然科学的な側面だけではなく、民族や文化等の社会科学的な側面も含め、統合して考えていかなければならない。持続可能な保全を実現するため、若年層の活動や、熟年層から若年層への知識の継承を促進することの重要性を改めて認識した。」と述べました。